7日間ブックカバーチャレンジ 1日でやってみた③『半島を出よ』村上龍
出版社の代表として本を紹介するのに、椎名誠、村上春樹、村上龍と国民的どメジャーな作家が三連発なのはどうかと思うが、まあ気にしないでください。
村上龍で好きな小説は圧倒的に『69』とか『テニスボーイ』だけど、身体的な記憶に残っているのは本書である。
前回書いたように銀行を退職して、しばらく地元にも居づらい、金も必要だ、ということで愛知県の某トヨタ自動車の工場で働いた。よく求人広告が出ている「月30万、1年で何十万円ボーナス!」という例のアレである。
愛知県の知立市というまったく知らない土地(名古屋じゃねえのかよ!)の寮に収容され、今週は朝の6時から仕事、次の週は昼の15時から仕事、という変則的なスケジュール。配置されたのはドアラインで、トヨタシエンタやファンカーゴなどのスライドドアの左ドアの内側の一部分の部品だけ!をひたすらつけ続ける作業だった。友だちもいないし、仕事以外はひとつもやることがなく猛烈に暇だったから、よく本を読んだ。
寮からチャリで何十分かのところに書店があり、本書が大々的に積まれていたのを記憶している。北朝鮮のコマンドが博多を占拠して、少年たちが反撃をする物語だが、コマンドたち(本書では少年たちからコリョと呼ばれる)が人を殺傷する技術、精神力、冷静さ、冷酷さが凄まじい。ものすごく怖い。コリョに勝手に政治犯に認定された囚人たちが拷問を受けて肩の骨が見えるほどに角材で殴られるとか、もう読んでて痛さと気持ち悪さでめちゃくちゃに怖い。
寮で読み出して、あっちの階段からコリョが攻めてきたらどげんしよか。ドアから顔出した瞬間に撃ち抜かれるぞ、とページをめくる手が止まらず一睡もせずそのまま仕事に行った。ふらふらで工場に到達するも頭の中はコリョでに占拠され作業に大幅に支障を来たし、自分の行程で何度もラインがストップした。これが収容所ならわたしは即粛正である。
コリョの考え方は合理的で、集団としての目標がトータルで達成されるならば自分の身体の部分が損壊されても、最悪死んでも構わない。組織として非常に強い。まったく共感はできないのだが。
トヨタの工場で、作業員がプレスの行程で亡くなる事故があった。名前も知らないひとだったが、翌日も何事もなかったように普通に工場が稼働するさまに、そろそろ潮時だな、と鹿児島に帰った。そんなことを思い出す本。
(燦燦舎 代表 鮫島亮二)